Art Point Picks
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[ ビッグ・アイズ ]
もしも自分の作品が街中に溢れているのに、作者であると名乗れないとしたら。創作者の端くれである私はこの話が実話であるということに身の毛がよだつ思いがした。これは望んでいないにも関わらず、信じていた夫にゴーストライターとされてしまう絵描きの女性の生き様を描いた作品だ。
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娘を連れて前夫との別居を始めたマーガレットはいつも瞳の大きな子どもの姿を描いていた。新しい街でウォルター・キーンと出会い、すぐに彼との結婚を決める。マーガレットが描いた作品をウォルターが売るというスタイルで、サインは「KEANE」とした。ウォルターが絵を描いたのは自身であると言いふらし、描き手が妻であることを隠蔽する。しかし、キーン氏の絵は飛ぶように売れ、「ビッグ・アイズ」はひとつの社会現象となる。
絵画を道具としてしか見ていないウォルターと、それでもなお、絵と真摯に向き合い続けるマーガレット。絵画や藝術との向き合い方を再度見つめ直すきっかけを担う一作。 -
[ ミステリアス ピカソ 〜天才の秘密〜 ]
ピカソの友人で、サスペンスの巨匠でもあるアンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督による、ピカソの制作過程を追ったドキュメンタリー映画。
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カメラはピカソが描く画紙の向こう側に置かれ、彼が描き出す曲線、色彩などをリアルタイムに記録していく様子は、まさにスリリングそのもの。彼がいかにして、あの奇跡のような作品を生み出して行くのかを目の当たりにできる貴重な記録映像である。とともに、ただの記録映画にとどまらず、サスペンス監督ならではの仕掛けも随所に施された一作だ。しかし、残念ながら、本映画の中で描かれた20点の作品は後に全て廃棄されたため、もはやこの映画の中でしか観られない。その貴重さゆえ、この作品自体が84年にフランス政府により、「国宝」に指定されている。なお、撮影は画家ルノワールの孫にあたるクロード・ルノワール、音楽は『ローマの休日』なども手掛けたジョルジュ・オーリックという豪華スタッフ陣。美術ファン必見の一本である。 -
[ 非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎 ]
1973年にひっそりと81年の生涯を閉じ、死後多数の作品が発見され急速に評価を得た孤高のアウトサイダー・アーティスト、ヘンリー・ダーガー。そのダーガーの謎に包まれた人生と特異な作品世界に迫るアート・ドキュメンタリー。
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監督はドキュメンタリー映画の巨匠、ジェシカ・ユー。親類も友人もなく、生涯にわたって孤独の世界に身を置いたダーガーの人物像を入念なリサーチで明らかにしていくドキュメントと併行して、彼が遺した15,000ページを越える小説『非現実の王国で』に描かれた挿絵をアニメーション化し、ダーガーが生きる拠り所とした奔放な妄想世界を描き出していく。邪悪な大人の男達から子供達を救うべく壮絶な闘いを繰り広げる 7人の無垢な少女ヴィヴィアン・ガールズ。裸で男性器を付けた彼女たちの動く姿が、特異な美意識による無限の妄想の世界へと観る者を迷い込む。 -
[ ベルヴィル・ランデブー ]
2003年、カンヌ国際映画祭特別招待作品としてプレミア上映され、アカデミー賞長編アニメーション部門・歌曲賞ノミネートなど、映画賞を総なめにした、世界中を魅了するフレンチアニメーション。
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架空の巨大都市”ベルヴィル”を舞台に、小さなおばあちゃんと愛犬ブルーノが駆け巡る。極端にデフォルメされた街並みや人物、その動きには、とても可笑しみがあり笑みがこぼれてしまう。またその形態は、人間や社会の本質を鋭く捉え、表現しているようにも見える。台詞をほんとんど排しながらも、強くこの世界に惹きこまれていくのは、全体を通して鮮烈な印象を放つ、スウィング・ジャズ風の音楽も大きい役割を果たしている。ノスタルジックでナンセンスな雰囲気を漂わせながらも、エンターテインメント性が弾ける独特な作品。 -
[ ひなぎく ]
例えるなら、毒キノコのような作品です。「人形のような愛らしい姉妹が数々のいたずらを楽しむ話」と書けば一見何ということもないストーリーに感じられますが、美しい狂気さや危うさがそこに介在し、概念的な事象と相まって強烈な印象を残します。おなかが減ったら食べ、気にくわなかったら壊し、叱られそうになると泣きまねをして誤摩化す。何に対しても自由を欲求する彼女たちの行動は、本作品が制作された当時の社会主義体制に対する反抗を体現しているのかもしれません。彼女達の発する言葉は何度も見るうちに詩のように反芻され、抑圧された社会を脱却した新たな世界を想起させます。アート的な映像やファッションも注目の一つです。1966年に作られたチェコの作品ですが、先鋭的な雰囲気がすでに醸し出されていることに驚きます。
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[ ビーン〈劇場版〉 ]
学芸員という職業を「会場の隅でブランケットを膝に掛けて椅子に座っている人」と思ってはいないだろうか。これはそのような勘違いを発端としたコメディー映画である。
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物語は、ホイッスラーの代表作である《画家の母の肖像》が、アメリカへと寄贈されたことから始まる。その記念式典で講演をするためにイギリスから派遣されたのが、「学芸員」のビーンであった。作品を見た第一声で「良い額だ」と述べるなど、とんちんかんな「学芸員」のビーンによって、貴重な名画はとんでもないことになってしまう…テレビ版のブラックな要素は薄れて、アメリカ映画のハッピーエンドで気楽に笑える内容となっている。なお本作に登場するホイッスラーの作品は、オルセー美術館で常設展示されているので、実際に観に行くのも楽しいだろう。もちろん、ビーンによってとんでもないことにはなっていないのでご安心を。 -
[ テオ・ヤンセン 砂浜の生命体 ]
2009年、東京・日比谷パティオの展示会でテオ・ヤンセンのストランドビーストはアジアで初めてその姿を見せた。このDVDはその際作られたものである。ストランドビーストとはオランダ語で「砂浜の動物」の意で、ビーチアニマルともよばれる。
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テオ・ヤンセンはもとは物理学者であったが、ゴミ捨て場に捨てられた多量の電気パイプーそれらを組み合わせ、計算式により結合を繰り返し、あるいは淘汰しー新たな人工生命体として砂浜に送り出した。ストランドビーストの多くは風力で移動するため、今では「風を食べる生き物」と称されるほど。中には強い風を感知して、その身が飛ばないよう自らを砂浜に打ちつけるものもいる。廃材を主に使い、進化を遂げるストランドビーストは、環境保護やモノづくり、科学などの分野から注目を集めている。 -
[ ダージリン急行 ]
長男フランシス、次男ピーター、三男ジャックのホイットマン3兄弟。1年前の父の死をいまだに乗り越えられない彼らが、フランシスの提案でダージリン急行に乗って「心の旅」に出かける物語。
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インドを舞台にした本作の最大の魅力は、インドの伝統美術を随所に取り入れたビジュアルの美しさだ。3兄弟が乗り込むダージリン急行の車体は、内装・外装ともに美術監督とインドの職人たちが協力して作り上げた、とても芸術性の高いものになっている。また、主人公たちが立ち寄るインドの街や村も、アジアならではの彩度の高い色彩にあふれていて、独特の美しさがある。それらの情景の中で、登場人物たちの感情の変化を言葉ではなく映像で切り取る監督の手腕が冴えわたる一本。