Art Point Picks
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[ MARK ROTHKO ]
2009年に川村記念美術館で開催された、アメリカの抽象表現主義を代表しカラー・フィールドペインティングの作品で知られる画家、マーク・ロスコが晩年に製作した《シーグラム壁画》シリーズを中心に紹介された展覧会の公式カタログ。
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《シーグラム壁画》シリーズとは、1958年に、ミース・ファン・デル・ローエとフィリップ・ジョンソンの共同設計のシーグラム・ビル内のレストラン「フォー・シーズンス」に、設置する作品を依頼され製作した連作のことである。結果として、ロスコが室内を見て自身の作品を置くことはできないと一方的に契約を破棄し実現に至らなかったエピソードは有名である。
本書にあるロスコの言葉に次のようなものがある。
『僕は絵画をつくったのではなく、場(place)をつくったのだ。』
上記のエピソードのようにロスコは自身の作品が展示される環境に対して多大な拘りを持っていた。ロスコの巨大画面の作品は単なる絵画ではなく「壁画」として一室を埋める性質がある。その特性と赤褐色やグレーの薄暗い色彩が醸し出す緊張感や重圧感によってロスコは自身の作品のみで一室を囲む「ロスコ・ルーム」という一種の空間作品を作り出そうとしていた。自殺する直前まで設計計画で建築家と対立が生じた「ロスコ・チャペル」を含め、ロスコが生前にそれを見ることはなかった。現在は作品を所有している美術館により「ロスコ・ルーム」は世界に4つ存在している。
本展はその「ロスコ・ルーム」の1つがある川村記念美術館で開催された。本書にはロスコの講演における言葉のほか、研究者による論表、また現存が確認されている30点の《シーグラム壁画》シリーズが掲載されている、ロスコに関する貴重な1冊である。 -
[ ダン・グレアムによるダン・グレアム Dan Graham by Dan Graham ]
2003年から2004年にかけて千葉市美術館と北九州市立美術館で開催された、現代アメリカ美術を代表するアーティスト、ダン・グレアムの展覧会の公式カタログ。
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1960年代からアート作品の製作を始め、その作品の背景にある彼が影響を受けたもの、また興味を示す分野は美術に限らず写真、音楽、映像、建築、現象学などジャンルに囚われない多岐に渡る関心から派生している。本書では、60年代の言葉・図表を雑誌などでの印刷媒体で発表した作品から、70年代の鏡やヴィデオカメラを使用したインスタレーションやパフォーマンス、そして80年代から現在まで製作を続けているハーフミラーを主な素材とする《パヴィリオン》シリーズへと続くグレアムの代表作が掲載されている。
印刷媒体での平面から、ヴィデオ・インスタレーションや《パヴィリオン》など環境・建築的観点と密接に関連するものへとなったことで、鑑賞者が作品内に介入するインタラクティブな性質が高まる傾向にある。鏡の反射と監視の役目を持つヴィデオ・カメラを併用したインスタレーション作品は、鑑賞者に自身の像を「見る」ことを強制させ、鏡像と映像、そして現実にいる「自己」を比較し独特な体験を及ぼすと思われる。《パヴィリオン》の主構造であるハーフミラーは、天候状態や時間帯、光量によってその表面は鏡のように「反射」したり、ガラスのように「透過」したりする。《パヴィリオン》の周りを周回する鑑賞者は反射された風景を背景に、他者の像を比較しながら「自己」を判別する。
グレアムの作品はこのように鏡、ヴィデオ、ハーフミラーなどをメディウムとし、作品と鑑賞者との間の主客関係や間主観性に富んだ、独自の視覚体験を及ぼしている。本書は、グレアムについての批評家たちのエッセイと一作ごとに本人の解説文が掲載されている貴重な資料だ。 -
[ 日本美術のことばと絵 ]
文字と絵画を組み合わせた美術作品は、絵画や工芸といったジャンル、あるいは古代か現代かといった時代を問わず多くのものが存在する。
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本書では日本美術における文字と美術が融合した例を紹介されている。ひとえに文字と美術の融合といってもその形態は様々である。例えば屏風絵においては、色紙形に書かれた和歌とそれを絵画化した絵がともに表される。あるいは、寛文小袖といった着物においては文字を大胆にアレンジして着物の意匠とした物が見られる。
本書を読むと、文字と美術が織りなす多様な世界に引き込まれることだろう。読後はぜひ文字と美術の呼応に目を向けてほしい。
美術館で見る作品や身の回りのグラフィックデザインを一歩踏み込んで楽しむことができるはずだ。 -
[ 民藝とは何か ]
日常的な工芸品に美を見出した柳宗悦。
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その理論を知るための格好の入門書である。
表題作「民藝とは何か」では柳宗悦の同時代の美術に対する鋭い批判と柳の目指す民藝美の理念が綴られている。章立ても「民藝とはいかなる意味か」、「何故特に民藝が論ぜらればならぬか」など質問文になっており、非常に明確かつ簡潔な表現で書かれているため、民藝の概念について理解することが可能であろう。他にも「日本民藝館について」等の小論から、モノの持つ本質的な美しさについて考察を深めることができるに違いない。
本書を読んだ人はぜひ、東京・駒場の日本民藝館を始めとした各地の民藝館や民藝店を訪れてみてほしい。素朴な工芸品の持つ美しさを改めて実感することができるだろう。 -
[ 中・高校生のための現代美術入門 〇△□の美しさって何? ]
「抽象画って意味がわからない」、「抽象画の一体なにが面白いの?」
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抽象画に対してそのように思っている人は決して少なくないだろう。本書はそんな人のための格好の抽象画入門書だ。本書では、カンディンスキー、モンドリアン、マレーヴィチという抽象画を代表する3人の画家に注目して彼等の作品、人生、考え方が紹介される。
読み勧めていくうちに、一口に「抽象画」といってもそのアプローチや特徴が全く異なることが理解できるだろう。彼等それぞれが目指した美しさを知ることを通じて、自分の好みの抽象画のタイプがわかるだろうし、美しさとは何かという根本的な問題にも目を向けることができるようになるかもしれない。
本書を読み終わる頃には難しそうに思えた抽象画がぐっと身近に近づいて、楽しむための一歩を踏み出すことができるだろう。 -
[ パウル・クレーの文字絵―アジア・オリエントと音楽への眼差し― ]
20世紀前半の画家、パウル・クレーの作品の中にはカラフルな画面の中にブロック状に文字を配した「文字絵」と呼ばれる一連の作品群がある。本書はこの「文字絵」について一つ一つ解説した書物だ。
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本文中では、クレーの文字絵作品の背景、書かれたもの、文字と絵との関わりについて詳しく説明されている。「文字絵」作品は、絵画だけみても美しく、魅力的なのだが、本書を読み、とりわけ書かれた文字がどういう意味なのか知ることで、一層作品を楽しめるようになるだろう。
特に、クレーがしばしば用いた自らの作品を切断して再構成するという技法が、色彩と文字の融合にさらなる意味を付け加えているという点からは絵画表現の可能性の豊かさを感じることができる。
クレーファンのみならず、すべての美術ファンにおすすめしたい一冊である。 -
[ 中国の美術 見かた・考えかた ]
中国美術について意識したことがあるだろうか?
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よく美術館に行く人でも興味関心は日本美術や西洋美術によってしまい、あまり中国美術に注意を払ったことがないという人もお多いかもしれない。
本書は初心者にオススメの中国美術の入門書である。絵画はもちろん、青銅器、書、陶磁、彫刻、染織、建築など実に様々な分野についてテーマ別に章が立てられ、それぞれについてどのような考え方で楽しめば良いのかまとめられている。例えば山水画について、小さな人物や建物などが書き込まれた細部の拡大図を逐一取り上げながら解説がされているので、カタログを見ているだけでは気づかない細部を注意する必要性を学ぶことができる。
この本を読めば、美術展で見る中国美術の作品をもっと楽しめるようになるだろう。 -
[ 現代アートの哲学 (哲学教科書シリーズ) ]
ルネサンスや印象派は芸術だと直感的に理解できるが、デュシャンやポロックなどモダニズム以降の芸術って本当にアートなのかよく分からない。こうした疑問に答えてくれるのが本書、現代アートの哲学。
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現代アートを哲学的なアプローチから紐解き、感性を使って芸術を楽しむという考えを根本から覆してくれる一冊。デュシャンの食器洗いパットの外箱を本物そっくりに木の板で制作した「ブリロ・ボックス」や男性用小便器を横に倒し”R.Mutt”と署名しただけの「泉」といった『よく分からないアート』がなぜアートとして定義されるのか等、様々な芸術にまつわる話題が12章に渡って解説されている。
これからのアートはどこへ向かっていくのか、そのヒントをこの本は教えてくれる。