Art Point Picks
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[ 「芸術と科学のあいだ」 ]
生物学者の福岡伸一氏が、科学の言葉で芸術を語るエッセイ集。毎回アート作品や建築物を一つ取り上げ、それに纏わるエピソードや感想を科学の視点を織り交ぜながら綴っている。
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福岡氏によれば、芸術と科学のあいだに共通しているものは、「この世界の繊細さとその均衡の妙に驚くこと」と「そこにうつくしさを感じるセンス」である。派手な模様を持つ虫、整然と並ぶ結晶、多様な機能を持つ細胞たち。それらの存在に驚き、美しいと感じたことがあるならばきっと本書を楽しめるだろう。
本書は、新聞に連載されていたコラムを書籍化したものということもあり一つ一つの文章が簡潔で非常に読みやすい。芸術論の入門書としてもおすすめの一冊だ。 -
[ 絵画の歴史 洞窟壁画からiPadまで <増補普及版> ]
3次元の世界を2次元で表現するとはどういうことか。
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現代アーティストのデイヴィッド・ホックニーと美術批評家のマーティン・ゲイフォードが対話を通して画像の歴史を紐解く本書では、従来分けて論じられていた絵画、写真、映像などの視覚表現が「画像(picture)」としてまとめられている。
構図、陰影、光学機器といった多様な切り口で、時代や地域、ジャンルが異なる画像を同じ文脈で捉え直す2人の対話は、読者に視覚芸術への新たな視点をもたらすだろう。画像を制作する者であるホックニーと、画像を見る者であるゲイフォードが、それぞれ冒頭の問いをどう考えるのか。ぜひ本書を手に取って確かめてみて欲しい。  -
[ 西洋美術解読事典 絵画・彫刻における主題と象徴 ]
美術作品に何が描かれているのか。この、一見明白であることはしかし、単に作品を見ればわかるものではない。
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例えばある人物が誰であるのかはその人物の身につけているもの、いわゆる「アトリビュート(持物)」によって判断することができる。例えば神話画において、弓矢を持つ男性はアポロ神である可能性がある。作品に表されている図像から何が描かれているのかを読み取り、その主題を読み取ることは、美術鑑賞の醍醐味と言えるだろう。
しかしながら、このような図像と意味の対応に関する知識は、現代社会に生きる我々の身近なものではなく、自然に身につけるのは難しい。
そこで、役に立つのが本書である。本書は事典の形式で、西洋美術に頻繁に登場する人物、神、動植物、器物などの項目が並んでいる。
それぞれの項目の下には、関連する神話なども紹介されている。読み物として気になる項目を読む、気になる作品のタイトルや表された図像について事典を引き、作品についての理解を深めるなど様々な使い方ができる本である。 -
[ 美術出版ライブラリー 歴史編 西洋美術史 ]
熱心な美術ファンであっても膨大な西洋美術の流れを把握するのは容易ではない。先史美術から現代アートまで、西洋美術には様々な歴史的展開があり、それぞれが複雑に絡み合っている。
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西洋美術を理解するのにオススメの入門書が『美術出版ライブラリー 歴史編 西洋美術史』である。この本は時代ごとに章が分けられており、各章の最初に時代の概観が、その後細かなトピックが語られている。
図版も豊富であり、初学者にも読みやすくなっている。また、全ての時代が一冊にまとまっているので、例えば印象派など日本で取り上げられやすいテーマだけでなく、中世美術などあまり親しみがない人も多いだろう時代にも目を通すことができる。
この本を読んで、美術展を見に行く際に、単に「有名だから」見る見世物小屋的な満足感を得るだけでなく、作品の歴史的位置づけを意識することで、一層深い鑑賞体験をすることが可能になるだろう。 -
[ 美術展の不都合な真実 ]
日本では毎年世界屈指の名画が来日し、〇〇美術展が次々と開催されている。確かに日本は世界有数の芸術愛好国ではある。しかし、〇〇美術展が開催される裏には大金を生むマスコミ主導の「美術展ビジネス」が大きく関係しているのだ。常設展の過疎具合に対する企画展のあまりの混雑具合、チケットの高騰化に疑問を持ったことはあるだろうか。国際交流基金や新聞社の事業部で美術展に関わってきた著者がこの著書を通じて、美術館や展示企画における不都合な真実について徹底解説し、美術業界の構造自体に大きな疑問を投げかける。
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美術展の企画から開催までの道のりや、普段あまり知ることのない美術館とマスコミ事業部の裏側について知ることができる一冊。展示会に長年関わってきた著者だからこそ明かせる事実やこれからの美術館のあり方について独自の見解を述べている点が大変興味深い。
この本を読むと、日本の美術館の異端さや業界構造の歪み、海外との作品貸借の際に露呈する日本の立場の弱さなどに気付かされ、今後の美術展や美術館のあり方や本当に行くべき展示について読者も考えさせられるだろう。 -
[ Donald Judd Spaces ]
ドナルド・ジャッドはアメリカのミニマリズムを代表するアーティストである。批評家でもあった彼が当時の美術の動向について論じた「スペシフィック・オブジェクト」(1965)は、美術界に大きな影響を与えたことでも知られている。またジャッドは建築への興味関心や自作を展示する空間についても拘りを持っており、1968年にはニューヨークの5階建てのビル、「スプリング・ストリート101」を購入し、住居兼スタジオと展示室に改修。晩年はテキサス州の辺境地、マーファへと拠点を移し、広大な土地と建物を購入し、自作や他のアーティストの作品の展示室のために建物を改修しパーマネント・インスタレーションを実現させた。
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本書はニューヨークの「スプリング・ストリート101」の事例を始め、マーファでの改修施設が平面図と写真とともに紹介されている。それぞれの施設に関する本人のエッセイも含まれており、ジャッドの晩年の改修と作品設置の活動についてまとめられた1冊である。 -
[ MARK ROTHKO ]
2009年に川村記念美術館で開催された、アメリカの抽象表現主義を代表しカラー・フィールドペインティングの作品で知られる画家、マーク・ロスコが晩年に製作した《シーグラム壁画》シリーズを中心に紹介された展覧会の公式カタログ。
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《シーグラム壁画》シリーズとは、1958年に、ミース・ファン・デル・ローエとフィリップ・ジョンソンの共同設計のシーグラム・ビル内のレストラン「フォー・シーズンス」に、設置する作品を依頼され製作した連作のことである。結果として、ロスコが室内を見て自身の作品を置くことはできないと一方的に契約を破棄し実現に至らなかったエピソードは有名である。
本書にあるロスコの言葉に次のようなものがある。
『僕は絵画をつくったのではなく、場(place)をつくったのだ。』
上記のエピソードのようにロスコは自身の作品が展示される環境に対して多大な拘りを持っていた。ロスコの巨大画面の作品は単なる絵画ではなく「壁画」として一室を埋める性質がある。その特性と赤褐色やグレーの薄暗い色彩が醸し出す緊張感や重圧感によってロスコは自身の作品のみで一室を囲む「ロスコ・ルーム」という一種の空間作品を作り出そうとしていた。自殺する直前まで設計計画で建築家と対立が生じた「ロスコ・チャペル」を含め、ロスコが生前にそれを見ることはなかった。現在は作品を所有している美術館により「ロスコ・ルーム」は世界に4つ存在している。
本展はその「ロスコ・ルーム」の1つがある川村記念美術館で開催された。本書にはロスコの講演における言葉のほか、研究者による論表、また現存が確認されている30点の《シーグラム壁画》シリーズが掲載されている、ロスコに関する貴重な1冊である。 -
[ ダン・グレアムによるダン・グレアム Dan Graham by Dan Graham ]
2003年から2004年にかけて千葉市美術館と北九州市立美術館で開催された、現代アメリカ美術を代表するアーティスト、ダン・グレアムの展覧会の公式カタログ。
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1960年代からアート作品の製作を始め、その作品の背景にある彼が影響を受けたもの、また興味を示す分野は美術に限らず写真、音楽、映像、建築、現象学などジャンルに囚われない多岐に渡る関心から派生している。本書では、60年代の言葉・図表を雑誌などでの印刷媒体で発表した作品から、70年代の鏡やヴィデオカメラを使用したインスタレーションやパフォーマンス、そして80年代から現在まで製作を続けているハーフミラーを主な素材とする《パヴィリオン》シリーズへと続くグレアムの代表作が掲載されている。
印刷媒体での平面から、ヴィデオ・インスタレーションや《パヴィリオン》など環境・建築的観点と密接に関連するものへとなったことで、鑑賞者が作品内に介入するインタラクティブな性質が高まる傾向にある。鏡の反射と監視の役目を持つヴィデオ・カメラを併用したインスタレーション作品は、鑑賞者に自身の像を「見る」ことを強制させ、鏡像と映像、そして現実にいる「自己」を比較し独特な体験を及ぼすと思われる。《パヴィリオン》の主構造であるハーフミラーは、天候状態や時間帯、光量によってその表面は鏡のように「反射」したり、ガラスのように「透過」したりする。《パヴィリオン》の周りを周回する鑑賞者は反射された風景を背景に、他者の像を比較しながら「自己」を判別する。
グレアムの作品はこのように鏡、ヴィデオ、ハーフミラーなどをメディウムとし、作品と鑑賞者との間の主客関係や間主観性に富んだ、独自の視覚体験を及ぼしている。本書は、グレアムについての批評家たちのエッセイと一作ごとに本人の解説文が掲載されている貴重な資料だ。