Art Point Picks
-
[ PHOTOGRAPHS SCULPTURES ]
マイクケリーは絵画、インスタレーション、ビデオアートなど多岐にわたるアメリカの現代美術家で、2012年に57歳で亡くなっている。
View more
本書は2009年に開催した展覧会の際に発表したカタログである。ケリー本人が被写体となり降霊術を模した写真『ECTOPLASM PHOTOGRAPHS』をはじめとし、SONIC YOUTHのアルバムジャケットでも有名な使い古したぬいぐるみを使用した写真『UNTITLED』など1970年代~1990年代に制作された未発表の写真作品から、最新の彫刻作品『KANDORS』が刊行されている。また、展覧会に合わせ最新のポエムが発表され、断片的なイメージからなる6つポエムとは対照的に、ケリーによる作品の解説文は輪郭を成している。初期の作品から最新の作品をポエム、解説と読み進めることで作品に対する考察を深めることを可能とし、とても読み応えのある全64ページからなるカタログである。 -
[ Adult Comedy Action Drama ]
リチャード・プリンスはアメリカ出身の広告写真などを再撮影する、シミュレーショニズムを代表する写真家である。2015年に発表した『New Portraits』では、インスタグラムから他人の画像を使用し著作権侵害には当たらないものの、約1000万円で落札されたことに対し物議を醸した。
View more
『Adult Comedy Action Drama』では、リチャードが1995年に発表した写真集である。
マルボロの広告を複製した『Untitled(cowboy)』や、キャンバスに数行のジョークを書いた『Joke paintings』シリーズなど、リチャードがこれまでに制作してきた資本主義社会に対する作品に加え、日常のスナップショットなども刊行されている。青色に統一された写真やオリジナルをコピーし作品にすることで、隠されていたイメージを純粋たるものとしてそこに浮かび上がらせることができている。 -
[ 「芸術と科学のあいだ」 ]
生物学者の福岡伸一氏が、科学の言葉で芸術を語るエッセイ集。毎回アート作品や建築物を一つ取り上げ、それに纏わるエピソードや感想を科学の視点を織り交ぜながら綴っている。
View more
福岡氏によれば、芸術と科学のあいだに共通しているものは、「この世界の繊細さとその均衡の妙に驚くこと」と「そこにうつくしさを感じるセンス」である。派手な模様を持つ虫、整然と並ぶ結晶、多様な機能を持つ細胞たち。それらの存在に驚き、美しいと感じたことがあるならばきっと本書を楽しめるだろう。
本書は、新聞に連載されていたコラムを書籍化したものということもあり一つ一つの文章が簡潔で非常に読みやすい。芸術論の入門書としてもおすすめの一冊だ。 -
[ 絵画の歴史 洞窟壁画からiPadまで <増補普及版> ]
3次元の世界を2次元で表現するとはどういうことか。
View more
現代アーティストのデイヴィッド・ホックニーと美術批評家のマーティン・ゲイフォードが対話を通して画像の歴史を紐解く本書では、従来分けて論じられていた絵画、写真、映像などの視覚表現が「画像(picture)」としてまとめられている。
構図、陰影、光学機器といった多様な切り口で、時代や地域、ジャンルが異なる画像を同じ文脈で捉え直す2人の対話は、読者に視覚芸術への新たな視点をもたらすだろう。画像を制作する者であるホックニーと、画像を見る者であるゲイフォードが、それぞれ冒頭の問いをどう考えるのか。ぜひ本書を手に取って確かめてみて欲しい。  -
[ 西洋美術解読事典 絵画・彫刻における主題と象徴 ]
美術作品に何が描かれているのか。この、一見明白であることはしかし、単に作品を見ればわかるものではない。
View more
例えばある人物が誰であるのかはその人物の身につけているもの、いわゆる「アトリビュート(持物)」によって判断することができる。例えば神話画において、弓矢を持つ男性はアポロ神である可能性がある。作品に表されている図像から何が描かれているのかを読み取り、その主題を読み取ることは、美術鑑賞の醍醐味と言えるだろう。
しかしながら、このような図像と意味の対応に関する知識は、現代社会に生きる我々の身近なものではなく、自然に身につけるのは難しい。
そこで、役に立つのが本書である。本書は事典の形式で、西洋美術に頻繁に登場する人物、神、動植物、器物などの項目が並んでいる。
それぞれの項目の下には、関連する神話なども紹介されている。読み物として気になる項目を読む、気になる作品のタイトルや表された図像について事典を引き、作品についての理解を深めるなど様々な使い方ができる本である。 -
[ 美術出版ライブラリー 歴史編 西洋美術史 ]
熱心な美術ファンであっても膨大な西洋美術の流れを把握するのは容易ではない。先史美術から現代アートまで、西洋美術には様々な歴史的展開があり、それぞれが複雑に絡み合っている。
View more
西洋美術を理解するのにオススメの入門書が『美術出版ライブラリー 歴史編 西洋美術史』である。この本は時代ごとに章が分けられており、各章の最初に時代の概観が、その後細かなトピックが語られている。
図版も豊富であり、初学者にも読みやすくなっている。また、全ての時代が一冊にまとまっているので、例えば印象派など日本で取り上げられやすいテーマだけでなく、中世美術などあまり親しみがない人も多いだろう時代にも目を通すことができる。
この本を読んで、美術展を見に行く際に、単に「有名だから」見る見世物小屋的な満足感を得るだけでなく、作品の歴史的位置づけを意識することで、一層深い鑑賞体験をすることが可能になるだろう。 -
[ 美術展の不都合な真実 ]
日本では毎年世界屈指の名画が来日し、〇〇美術展が次々と開催されている。確かに日本は世界有数の芸術愛好国ではある。しかし、〇〇美術展が開催される裏には大金を生むマスコミ主導の「美術展ビジネス」が大きく関係しているのだ。常設展の過疎具合に対する企画展のあまりの混雑具合、チケットの高騰化に疑問を持ったことはあるだろうか。国際交流基金や新聞社の事業部で美術展に関わってきた著者がこの著書を通じて、美術館や展示企画における不都合な真実について徹底解説し、美術業界の構造自体に大きな疑問を投げかける。
View more
美術展の企画から開催までの道のりや、普段あまり知ることのない美術館とマスコミ事業部の裏側について知ることができる一冊。展示会に長年関わってきた著者だからこそ明かせる事実やこれからの美術館のあり方について独自の見解を述べている点が大変興味深い。
この本を読むと、日本の美術館の異端さや業界構造の歪み、海外との作品貸借の際に露呈する日本の立場の弱さなどに気付かされ、今後の美術展や美術館のあり方や本当に行くべき展示について読者も考えさせられるだろう。 -
[ Donald Judd Spaces ]
ドナルド・ジャッドはアメリカのミニマリズムを代表するアーティストである。批評家でもあった彼が当時の美術の動向について論じた「スペシフィック・オブジェクト」(1965)は、美術界に大きな影響を与えたことでも知られている。またジャッドは建築への興味関心や自作を展示する空間についても拘りを持っており、1968年にはニューヨークの5階建てのビル、「スプリング・ストリート101」を購入し、住居兼スタジオと展示室に改修。晩年はテキサス州の辺境地、マーファへと拠点を移し、広大な土地と建物を購入し、自作や他のアーティストの作品の展示室のために建物を改修しパーマネント・インスタレーションを実現させた。
View more
本書はニューヨークの「スプリング・ストリート101」の事例を始め、マーファでの改修施設が平面図と写真とともに紹介されている。それぞれの施設に関する本人のエッセイも含まれており、ジャッドの晩年の改修と作品設置の活動についてまとめられた1冊である。