Art Point Picks
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[ 美の進化論的起源 ]
デニス・ダットンは、アメリカの芸術哲学者であり、カンタベリー大学の芸術哲学教授などを務めていた。
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この「美の進化論的起源」でダットンは、実は我々が美しいと感じるものは見る人の眼の中にあるのではなく、実は先祖の持っていた知的スキルと豊かな感情生活から受け継いだものであるという持論を述べている。
我々は美を人類の持つ文化的な概念で、文明の登場によって獲得したものと思う場合もある。ところが、実は必ずしもそうではなく、ヒトがこの地球上に存在する以前から持ちうる可能性があることを「ダーウィンの進化論」を用いて説明している。
美しいものを作るのに必要な器用さや知性・計画能力といったものは、その能力を持つ者のステータスを上げて、生存にも有利に働いたとされる、というものである。
アンドリュー・パークによる非常にわかりやすいアニメーションも秀逸でわかりやすく、実は我々が普段美しいと感じているものは、古来より祖先の知的行動と豊かな感情生活によって受け継がれて、心の奥深くに存在する感覚的なものを拡張しているにすぎないということがわかりやすいダットンの英語と共に述べられている。 -
[ 檻囚 ]
寺山修司は前衛的な作品を制作してきた人物であり、詩人や劇作家、映画監督、評論家など自身の職業を「寺山修司」と名乗るほど幅広いことを行なっていた。
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『檻囚』は1964年に制作された実験映画集のうちの一作品である。
長年、寺山と共に映像作品や舞台の音響を手掛けてきたJ・Aシーザーによる、一定のリズムを刻み反復させた音楽。
突如として広場に現れた便器を覗き込む人物。ランニングをする女性に続く二人組の男性。柱時計の振り子。
その柱時計を抱える女性(大山デブ子)これらのショットは一見すると関連性はない。
しかしそれは、J・Aシーザーによる音楽とそれらがコラージュされた『檻囚』は寺山による一つの詩、すなわち、言葉を「実験映画」によって表現しているのではないだろうか。
寺山自身が実験映画集を「私の詩、私の暴力、私の猥談、私の名刺」と呼ぶように、この作品は寺山自身を紹介するためには必要不可欠な初期作品群のうちの、一つである。 -
[ Come Into My World ]
ミシェル・ゴンドリーは、フランス出身の映画監督・脚本家・映像作家で、ビョークやホワイト・ストライプスなど様々なアーティストのMVなどを手掛けている。
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彼の撮影方法はモーションコントロールや逆再生と一見シンプルである。しかし、その技法を最大限に活用し細かな美術や大掛かりな撮影の演出で高評価を得ている人物である。
今回紹介するのが、オーストラリア出身のシンガーソングライターであるカイリー・ミノーグのMVである。
ニューヨークを模した街中をカイリーが歩いている。そして気が付くとカイリーが一人、二人と街中を一周するごとに本人が増えていく。
カイリーのみならず、MVに登場している人物も増えているのだ。
ワンショットで撮影された映像をループ編集だけにせず、細部の演出も含め次に繋げていき、見飽きることもなく、手品のようなとても見応えのある映像作品である。 -
[ ダリの夢:360° ]
お気に入りの絵画の世界に飛び込めたのなら。この映像作品はそんな願いを叶えてくれる。
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これはジャン=フランソワ・ミレーの『晩鐘』をサルバドール・ダリが独自に解釈して描いた『ダリの夢』を元に、VR映像化したもの。ダリ美術館で2016年に開催された展覧会「ディズニーとダリ:想像の建築」によって発表された。YouTube上には手持ちのデバイスを動かして、360度視点を変えながら鑑賞できるものが公開されている。
何処までも広がるダリの柔らかな世界に、皆様も迷い込んでみてはいかがだろうか。 -
[ KIZUNA ]
本映像は、イタリア人現代アーティストのヴァレリオ・ベッルーティのアニメーションと、坂本龍一によるオリジナル曲とのコラボレーション作品。
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坂本龍一、平野友康が発起人のアーティストによる東日本大震災被災地支援プロジェクト「kizunaworld.org」の一環であり、アーティスト作品を寄付と引換に贈呈していくことで、より多くの寄付金を募ることを目的としたプロジェクト。その第一弾が本映像作品。ヴァレリオ・ベッルーティが日本で制作し、印象的な赤と黒は、漆器などにみられる日本古来の伝統文化を象徴した色彩であり、日本文化へのリスペクトからこれらの色を強調した。約300枚ものドローイングで構成される。
ヴァレリオ・ベッルーティは、1977年 ピエモンテ州アルバ生まれ。ヴェルドゥーノにある17世紀に建てられた教会をアトリエ兼自宅とし、1995年からそこでアーティストとして活動している。2009年にヴェネチアビエンナーレに出品した。イタリア伝統のフレスコ画、彫刻やレリーフといった立体作品も手がけるなど、作品は多岐にわたる。その作品の多くは子どもがモティーフとなっている。彼の表現する子どもたちは、もの思いにふけるようなどこか遠くを見つめる眼差しや仕草は、慌ただしい現代社会で忘れかけた何かを我々に静かに訴えかけてくるようだ。 -
[ Ever is Over All ]
ピピロッティ・リストはビデオインスタレーション作品を手掛けるスイス出身の女性アーティスト。多くのコンセプチュアルアーティストたちとは異なった、色鮮やかで幸福感漂う作風を特徴とし、高い評価を受けている。この映像作品は、1997年のベネツィア・ビエンナーレでプレミオ2000賞を受賞し、ニューヨーク近代美術館が購入したもの。
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大きなスクリーンを二分し、2つの映像が流れる。左半分では、若い女性が、花の形の大きなハンマーで路上に止められている車の窓ガラスを次々に割りながら、スローモーションで歩いていく。途中、後ろから来た警察官が彼女にあいさつし、女性は彼が通り過ぎてからも窓ガラスを割りながら歩いていく。右半分には、花の咲き乱れる野原の映像が映し出されている。女性は終始笑顔であり、美しい花々の映像やポップな色彩と相まって、画面全体から幸福感が立ちのぼってくるかのようだ。
難しいことは考えずに、彼女の生み出す映像の美しさを堪能してほしい。 -
[ Christian Marclay on Night Music ]
2011年ヴェネチアビエンナーレで金獅子賞を受賞した、現代ヴィジュアルアートを代表するマークレーの初期演奏風景。1980年代よりターンテーブルを即興演奏に使用し、それまで唯の再生道具であったターンテーブルを楽器として用いたパイオニアの一人である。マークレーの活動はHIPHOP/DJシーンだけではなく、音自体への興味やシステムへの懐疑といったアプローチから、サウンドアートの中に位置付けられる。60年代のミニマルおよびフルクサスやパンクムーブメントの影響を受けたと公言するマークレーのサウンドでは、作品と場所(=フロア)の関係性自体が作品の価値を決めるファクターとなる。アート界全体にカット・コピー、コラージュの概念を持ち込み、現在のアートシーンの複雑なイメージソースを形作る重要な作家の一人となった。
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[ Odilon Redon ]
オディロン・ルドンはフランス象徴主義を代表する画家であり、幻想性と夢想性にあふれた独特な絵画を数多く残した。初期には木炭やリトグラフによる黒の表現を追求し、『笑う蜘蛛』や『眼=気球』などに代表されるグロテスクでありながらどこかユーモラスな作品を手がけるも、早世した長男に次いで次男を授かった1890年ごろからは、突如パステルや油彩による美しく豊潤な色彩表現へと移行した。
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初期の細かく描きこまれた白黒世界から一転し、晩年にはおおらかな描写の個性的な色彩世界を構築したルドン。人間の顔をした奇怪な植物や生き物を描いたリトグラフだけでなく、画面の中で咲き乱れる色鮮やかなパステルの花々や、微妙な色彩で描かれた神秘的な作品『目を閉じて』など、彼の多様な世界観を垣間見られる作品を堪能してほしい。