Art Point Picks
-
[ 砂丘ー La Mode ]
植田正治(1913年3月27日-2000年7月4日)は、鳥取県出身の写真家である。前衛的な演出の著者独自のスタイルは「Ueda-cho(植田調)」と称され、国内外で高く評価されており人気を博している。特にアメリカやフランスでの人気は絶大なものだ。 本書には、植田の故郷にある鳥取砂丘で撮影された作品、約70点が収められている。 本作のタイトルにもある「砂丘」は、植田のアートワークに強く結びついている場所である。 植田は故郷にある鳥取砂丘を好んで撮影の場所とした。それは、人物画を撮影する際に鳥取砂丘を背景にすることが、氏の世界観を作品に表現する上では最適であると気づいたためである。 植田の作品では、砂丘が、どこかこの世のものではない、天井的な夢想空間へと創出されている。 植田にとって「砂丘」とは、自身の独自のシュルレアリスムな世界観、そしてノスタルジックな雰囲気を演出することのできる、最良の舞台装置であったのだ。 本作は、植田の芸術を理解する上で非常に重要な一書である。ぜひお手に取られることをおすすめしたい。
View more -
[ バンクシー 〜アート・テロリスト〜 ]
正体不明の匿名アーティスト バンクシーの全体像に迫る入門書ともいうべき一冊。 彼の故郷ブリストルに根付く精神などの文化的文脈から現在に至るまでの活動の経緯、現代アートシーンに与えた影響まで幅広く解説される。
View more
公共物に作品を制作するグラフィティアートという非合法な表現様式であるにも関わらず、なぜ多くの人から高い評価を得ているのだろうか ?
最初に日本と欧米の“公共”の概念の違いに触れた上で、グラフィティアートは人々が討議できる開かれた空間としての公共に目を向けさせるという点で創造と民主の証だとすることも可能であるというのが著者の解釈だ。
また著者はグラフィティアートの議論が「お金儲けと都市景観保全の議論に終始してしまい、ストリート・アートを楽しんでいる市民やその芸術的価値を論じる専門家が排除されてしまっていること」に危惧を示しており、日本におけるストリートアートの議論に一石を投じる内容にもなっている。
時代のポップ・アイコンになりつつあるバンクシーだが、彼の正体は21世紀のピカソか。
壮大な詐欺師か。
洗練されたビジネスマンか。
はたまた反体制のヒーローか。
私たちの芸術鑑賞に新たな視点を与えるとともに、現代におけるアートの価値そのものを考えさせる書籍だ。 -
[ もうひとつの空 – 日記と素描 ]
有元利夫が亡くなるまでの日記、素描、エッセイが綴じられた一冊。
View more
音楽と詩の流れる存在感のある画面…。その中には有元がこだわった「風化させる」「けづる」などの行為が潜んでいる。男女の違いや絵画に託した謎を、有元の哲学と共に示しているため、作品を鑑賞する上で、非常に貴重な本である。
有元利夫は、多くのファンを魅了した画家だが、早すぎた晩年の苦悩が明かされる。その中に間接的に示唆された「もうひとつの空」。希望を求め繰り返し読み直したくなる一冊。 -
[ シュルレアリスムとは何か ]
日本で解釈される「シュール」という言葉の正しい理解を促し、「超現実」とは何なのかを改めてインプットできる一冊。
View more
20世紀はじめに登場したこの思想と運動について、ブルトンやエルンストを中心に語り、「メルヘン」「ユートピア」へと話を広げる。
トーマス・モア「ユートピア」で書かれた規則性、反復性、合理性という特徴に焦点をあて、擬似ユートピア的な現代の日本を痛烈に批判する。また、シュルレアリストたちが行った、題材も配色も配置も決めず、何も考えず、自然と手が動くままに描く手法「自動記述(オートマティズム)」についてもそのプロセスをわかりやすく提示している。
シュールレアリスムの本質に迫る傑作講義である。 -
[ この星の絵の具: 一橋大学の木の下で (上) ]
画家・小林正人による自伝小説であり1980~90年代にかけて、国立のアトリエで描かれた宝石のような初期作品集。
View more
《天使=絵画》《絵画=空》《天窓》《絵画の子》……、といった傑作の数々はいかにして生まれたのか。彼の作品の裏側に潜んだストーリーが語られる。
小林青年が、「せんせい」と出会い、画と出会い、画家として成長する姿を追うと同時に、画を描くとは何なのか、展覧会を開くとは、、と美術の本質を考えさせられる。また、感覚的で繊細な文章は、彼の絵の中にいるような感覚に陥り、現実と非現実があいまいになる。装飾的でない真っすぐな言葉で綴られた真実は、彼の作品と共に受け取られ、読者はより感覚的になる。 -
[ ポピュラー音楽と資本主義 ]
勉強の息抜きに漫画を読むこと。仕事の休日に友人とロックフェスに行くこと。私達はこれらの行為を自主的に行なっているのではなく、現代の資本主義社会の中で操られて行っているのかもしれない。これまでの”当たり前”を疑わざるを得なくなる一冊。
View more
著者の毛利嘉考は現東京藝術大学大学院教授であり、本書においてポピュラー音楽の衰退を指摘した上で、現代文化やメディア、ひいては18世紀産業革命以降の近代社会の構造を、鋭い切り口から批判している。パターナリズムとは、生産性を上げるために労働者に労働以外の「余暇」の時間を設ける必要があるという考えのことであり、19世紀の産業革命以降に起こった考えである。この思考のもと、現代社会において音楽のような芸術・文化は、勉強や労働の息抜きである「余暇」に過ぎない存在となってしまった。「労働」と「芸術・文化(余暇)」を区別するフォーディズムの考えしかし本来、芸術・文化は単なる労働の息抜き以上の役割を果たすものであったはずだ。今や労働者を励ます「人生応援ソング」になってしまった音楽は、社会にすり寄っていくものではなく、むしろ社会への反骨精神を孕んだ「ロック」なものであったはずだ。本来の文化・芸術のあるべき姿と、現代の文化産業に取り込まれてしまったものとの差異に、読了後はきっと違和感を覚えることだろう。 -
[ YU NAGABA THE POCKET ART SERIES NUMBER ONE ]
『手のひらに一粒のアートを。』
View more
雑誌「POPEYE」表紙イラストレーションやアパレルブランド、BEAMSの「Beams T」Tシャツデザインなど、シンプルでキャッチーなデザインが大衆に受け入れられ、幅広く活動を行う長場雄氏のペーパーバック第1弾。「僕の作品と鑑賞者をつなげたい。そう思って、名画を描くことにしたんです」の言葉の通り、ドローイングの出発点となった「モナ・リザ」をはじめ、初期の名画シリーズを中心に収録されている。載っているアート作品はどれも馴染みあるものばかりで、ただ模写するだけではなく、少しアレンジされ描かれている作品もあり、長場氏のポップで上品な遊び心が感じられる。小さいサイズでパラパラと読めるので、一冊は手元に持っておきたい。 -
[ Talking to Ants ]
スティーブン·ギルはこれまで、ロンドン東部・ハックニーを舞台とした作品集を多数発表、2019年にアルル国際写真祭で写真集アワードを受賞した。
View more
今回紹介するのは、スティーブン·ギルが2009から2013の間にイーストロンドンで制作した写真集である。主役を演じている物や生き物も、この地域で手に入れたものだ。彼は直接それらをカメラの本体の中に入れ、フィルムの乳剤に封入されるよう促す。このユニークな手法によりまるで琥珀に埋め込まれてしまった物のように、その場所のスピリットが、イメージの上をよじ登り、いろいろなものが写真上に出現する。レンズの前後に同時に存在しているという状態を表しながら、その地域のフィーリングを喚起する。カメラの中で、物が衝突したり、調和したりしながら、落ち着いた位置次第で最終的なイメージがランダムに形成されるフォトグラムである。このシリーズにより実験的なアイデアとそれらを美しいイメージへと昇華させる姿勢が高い評価を得ている。