Art Point Picks
-
[ 造形ワークショップ入門 ]
あなたは「ワークショップ」を体験したことがあるだろうか。美術館や博物館など聞いたことがある人は多いだろうが、実際に体験した、さらに主催者側として取り組んだ人はあまりいないだろう。
View more
本書では、ワークショップにまつわる事例やワークショップの企画から開催まで、本来のワークショップの定義の説明を3章に分類して記されている。
第1章では、自然環境の保護を目的としたワークショップや幼稚園児同士の交流を深めるためのワークショップなど10事例挙げられている。ワークショップがわからない、という人には第1章から読むと大まかな雰囲気はわかるだろう。
第2章では、ワークショップの主催者が必要な企画力、開催するための組織力、今後のワークショップに役立つための記録力について説明されている。ワークショップを企画する際に、必要な要素がコンパクトにまとめてあるため、初めて主催者側として取り組むときに参考になるだろう。
第3章では、ワークショップの歴史やワークショップの定義を知ることができる。また、ワークショップを体験することによって起こる内面の変化を順序並べて記されている。
全体的にワークショップにまつわる基礎的な情報がわかりやすく述べられている。ワークショップを体験したことがない、経験者でもオススメの1冊である。 -
[ ショーン・タンの世界 どこでもないどこかへ ]
本書は、展覧会『ショーン・タンの世界展 どこでもないどこかへ』の図録兼書籍として刊行。 作品を1点1点鑑賞でき、画家ショーン・タンとしての側面から改めて絵本の世界を紐解く構成になっている。
View more
移民をテーマにした文字のないグラフィック・ノベル「アライバル」が出来上がるまでの試行錯誤や、なぜ文字がないのかなど、つくりあげた過程を資料やインタビューとともに知ることができる。もちろん初期の絵本から最新作の絵本、立体作品まで楽しめる。
タンが描く世界には、戦争や災害のメタファーのようなモンスターがいる一方で、人間と共生する不思議な生き物が登場している。 現実の風景のなかに、不思議な生き物がいる。どこにもない世界を浮かび上がらせ魅せてくれる。
制作の裏側を語るインタビューでは、絵が先か文が先か、絵本を生み出すまでの試行錯誤などを知ることができ、創造力、日常の観察力について深く考えさせられた。
アートに深みをもたらしてくれる一冊だろう。 -
[ ヨーゼフ・ボイスは挑発する ]
第二次世界大戦後のドイツ。美術館を超えて、社会への革命を叫んだ芸術家、ヨーゼフ・ボイスのドキュメンタリー映画。 彼の”脂”や”フェルト”を使った彫刻作品やパフォーマンス、観客との対話を作品とする彼の創造(アート)は美術館を飛び出し、”今を生きる全ての人”が、社会を築き上げて行くプロセスの一員であること、支え合い、共に社会を作り上げていくべきである、ということを私たちに語りかける。 本作では、膨大な資料映像や新たに影響された関係者へのインタビュー映像から、ボイスの芸術に迫っていくと共に、第二次世界大戦での死に直面した経験から受けた大きな傷が、彼の作品の核になっているという知られざる側面も明らかにする。 時を超えて、今、彼の残した言葉「全ての人は、芸術家である」に込められた願いや、「社会彫刻」の概念をヒントに、社会に生きるということを考えたい。
View more -
[ 浮世の画家(An Artist of the Floating World) ]
『浮世の画家(An Artist of the Floating World)』は、近年ノーベル文学賞受賞をしたカズオ・イシグロによる長編小説だ。 舞台は第二次大戦終了後の日本。画家を生業とする小野益次(おの・ますじ)の一人称視点で物語は進んでいく。 戦時中、小野は当時の軍国主義的風潮に倣い、日本精神を鼓舞するような絵で名声を浴びていた。しかし何もかもが終結した今ではすっかり隠居の身だ。そんな中、小野は娘・紀子の縁談が上手くいかないことに頭を悩ませていた。「もしや戦時中の自分の活動に問題があったのではないか……」。そんな思いから、小野は過去を振り返り始める。 輝かしい栄光は風化し錆びていく。あの頃「立派だ」と褒めそやされた指導者たちは、今や「国賊だ」と糾弾されている。可愛がっていた弟子は道を違えた。華やかだった街並みには、煤けた焼け跡と瓦礫の山……。 今自分が正しいと思っているものは、本当に正しいのか。我々はそれを考え続けていかなければならない。 戦後社会の怒涛の変化、新時代の到来、新旧の価値観が生む相違。
View more -
[ 森山大道の東京 ongoing ]
この写真集は2020年6月2日から9月22日まで東京都写真美術館で開催された「森山大道の東京 ongoing」という展覧会に際して出版されたものである。
View more
展覧会の名前にもあるように東京がテーマになっており、東京の街並みや人、建造物にスポットが当てられている。例えば、渋谷のセンター街。森山ならではの粗粒子で、ハイコントラストの写真を通して見るといつもなんとなく見ている風景とは違う風景に見えてくる。他にも歌舞伎町や銀座、浅草…。気に留めずに通り過ぎている場所も写真を通して見ることで様々な発見をすることができるのが面白い。
風景だけではなく、人にスポットを当てた写真も多いのが特徴の一つでひとりにフォーカスした写真もあり、ページをめくりながら人間観察をするような楽しさも感じる。
写真集を通して東京散策をするのも面白いのではないだろうか。 -
[ ファンタジー挿絵の世界 ]
寺山修司の「ひとりぼっちのあなたに」や「愛さないの愛せないの」などの少女向けの作品の表紙をご存知だろうか。
View more
寺山作品の少女向け作品と切っても切れない関係のあるグラフィックデザイナーといえば宇野亜喜良である。シンデレラなどのファンタジー作品から雑誌ananの表紙のデザインまで幅広く活躍している人物である。
この画集では、彼の作品の中でもファンタジー作品や恋愛小説、詩集などに向けて描かれたイラストレーションを掲載しており、全体的に淡い色合いでかわいらしい仕上がりとなっている。
かわいらしくもどこか耽美的な宇野亜喜良のファンタジーの世界を味わってみてほしい。 -
[ ブルーピリオド ]
『ブルーピリオド』は、月刊アフタヌーンで連載中の、美大受験をテーマにしたコミックスである。
View more
美大受験をテーマに据えている通り、本作のスポットが当たるのは高校生だ。勉強も遊びもそつなく熟すインテリヤンキー、「矢口八虎(やぐち・やとら)」が主人公として物語を引っ張っていく。しかし彼はもとから美術に関心があったわけではない。はじめは「美術なんて才能があるやつらのお遊びに過ぎない」と、堅実な安全圏を行く自分とは縁遠い存在だと決め付けていた。
そんな八虎を美術の世界へ手招いたのは、二つの言葉である。
「美術は面白いですよ。文字じゃない言語だから」
「あなたが青く見えるなら、りんごもうさぎの体も青くていいんだよ」
あなたは、「早朝の渋谷は青い」と感じたことがあるだろうか。言葉にできないほどの感動を分かち合ったことは? 何かに夢中で打ち込んで時間を忘れたことは? 脳の血管が切れそうなくらい悔しい思いをしたことは?
何か一つでも当てはまったなら、きっとあなたの中には八虎がいるはずだ。
Twitterで反響を呼んだアート系スポ根マンガ。「好きなこと」があるすべてのひとへ贈る。 -
[ ヤンシュヴァンクマイエル短編集 ]
ヤンシュヴァンクマイエルの1965年から1992年までに発表された短編作品を収録。
View more
「food」、「石のゲーム」、「スターリン主義の死」ほか全8作、監督のインタビューやドキュメンタリー付き。
チェコスロバキア出身でシュルレアリストの芸術家、ヤンシュヴァンクマイエルによる短編集。
一本でシュヴァンクマイエルの世界が楽しめる。
人間ではない「モノ」たちが人間のように感情を持って動き回るさまは非常に気味が悪く、良い意味でも悪い意味でも一度観たら忘れられない。しかし実写、アニメ共にストップモーションアニメーションを多用し、コンピューターを使わない技法で知られる彼の作品はシュール好きにはたまらないものである。
収録作品のうちの一つ、「スターリン主義の死」は当時のチェコスロバキア共産主義に対する明確な政治的プロパガンダ作品となっており、こちらのメイキング映像では撮影の裏側を知ることが出来る。
彼の作品は「食」をテーマにしたものが多く、そのどれもが不快感を催すような描写で描かれている。今回も例に漏れず、散々な表現の仕方をされているが、その理由として彼自身が「幼少期から食べることが好きではなかった」と発言している事が挙げられている。
どの作品も強烈な印象を与えるが、背景にある政治体制や彼自身の幼少期の記憶など、シュヴァンクマイエルを知った上でこの短編集を見返すと共感できる方も多いのではないだろうか。