Art Point Picks
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[ まなざしのレッスン 1西洋伝統絵画 ]
東京大学の教授である三浦篤が自身の教養学部での講義をベースにして書き下ろされた西洋美術の予備知識のない学生や大人向けの西洋美術入門書である。
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14、15世紀のイタリア・ルネサンス期から18世紀のフランス革命期までの西洋伝統絵画を対象とし、講義形式で神話画、宗教画、寓意画、肖像画などジャンル別に説明し、各章ごとで代表作品とともに紹介している。ただし、これは単なる概説書ではない。絵画の見方・楽しみ方は無数にあるということを念頭に置き、鑑賞に必要な基礎知識や最終的に独自の絵の見方を構築するための土台となる知識を提供してくれるのだ。つまり、知識が有りすぎてもいけないが、全くの無知な状態な状態で作品を見ても、宗教画や神話画などは神話や聖書の背景を知らないと理解できないので、その理解の補助のための知識を与えてくれるというのだ。
本書は、こういった点から着目しているので、知識はないが西洋美術に少しでも興味があるという方は、読んでも損がない本である。また、こちらの本は近現代西洋絵画に焦点を当てた続編もあるため、ぜひそちらも読むことをお勧めする。 -
[ 匂いと香りの文学誌 ]
街を歩いている時ふとした香りで思い出が蘇る事がないだろうか?あるいは香水の香りで懐かしい人を思い出す事も。流行りの曲ではないが、香りは五感の中でも特に記憶との結びつきが強いとされている部分だ。文学ではそんな匂いを表現の一つとして多くの作家が使っている。この本は人の身体の匂い、香水と花の匂い、発酵と美味しい匂いなど様々な角度から文学においての香りについて読み解いて行く。いかにして香りという一次的な表現を文字で読者に伝えるのか。また受け取る読者側が文章から嗅ぎ取れる様々な匂いをイメージする事が出来るのか。言葉と香りのマリアージュからなるアートには新しい発見が多い。
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様々なエッセンスのコンビネーションからなる香水のように文学も言葉の積み重ねからなる芸術だ。興味を持ったら是非この本を手に取って見て欲しい。 -
[ 官能美術史ヌード語る名画の謎 ]
人類の二大関心事といえば、愛と死。これは名だたる巨匠はもちろん、芸術家ならば一度は扱うであろうテーマだ。その中でも特に絵画、彫刻の中で愛は「ヌード」と結び付けられることが多く、複雑な愛のテーマがしばしば登場する。それは例えば、成熟した女性と少年が裸の状態で接吻している作品や人間の女性が動物と交わる作品、さらには裸体の女性二人が互いの乳頭をつまみ合う作品…etc
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これらのインモラルな作品は一体何を意味しているのであろうか。画中にあるヒントとアレゴリー、神話、歴史の知識を組み合わせることで、その謎が浮かび上がりやがて一つの答えに結びつく。
本書では、200点以上の図版とともに「ヌード」という観点から画中に込められたメッセージ、謎を読み解いていく。
ヌードで描かれた絵画や彫刻作品はありふれています。しかし改めて「ヌード」という観点から作品を読み解いていくことで、作品がなぜ「ヌード」という姿で描かれているのか、また性モラルの厳しかった西洋のキリスト教世界でなぜ「ヌード」を描くことが可能であったのか、そして裸体の表現はなぜ神話や聖書に多いのかなど、美術史と同時に西洋世界の「歴史」も学ぶことができる一冊です。 -
[ 上村松園 ーちいさな美術館 ]
この本は、日本画家・上村松園の作品をまとめた画集である。はがきと同じサイズなので、鑑賞するだけではなくポストカードとしても楽しめる。
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上村松園は、代表作「序の舞」「鼓の音」など美人画を描いたことで有名である。それらの作品も含めて32作品の美人画が紹介されている。
実際に手に取ると、上村が描く女性の細かな表情と着物の色彩の豊かさのギャップに驚かされる。動作の一瞬を捉えており、今にも女性が動き出しそうな作品が多いが、日本画ならではの作品の繊細さを感じ取ることができる。はがきサイズとはいえ、着物の細かな描写や作品全体が把握できるため鑑賞しやすい。また、本から作品を切り離すことができるので、壁に飾っても良いだろう。 -
[ ひとくちサイズを大盛りで ]
『酸いも甘いも熱く儚くヨコシマな「食」にまつわる写真と文』という副題の付いたこの本は、写真家である奥川純一によるものである。
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奥川純一は、ファッション誌に始まり、手芸本、作家の書籍、料理、建築、インテリア、取材ものに至るまで、ジャンルを問わず様々な写真を撮影している。リトルプレスという小部数で発行される自主制作の出版物や写真集の制作、写真展の実施なども手掛ける。
この本は写真集ともエッセイ集とも言っても良い。 食にまつわる様々な日常的な経験を短いエッセイ形式で綴っており、それぞれの内容に合わせた写真を載せている。 そこに書いてある何気ない言葉に共感したり、クスッと笑ってしまうこと間違いなし。 文庫本サイズの大きさで手に取りやすく、その割においしいやかわいいの詰まった写真と文章がぎっしりとあり、内容量が豊富。
余裕がなくて日常の小さな喜びが感じられなくなっている人にこそ読んで欲しいおすすめの一冊。 -
[ たゆたえども沈まず ]
キュレーターとしての経験から美術をテーマとした小説を多く手がける著者、原田マハ。『たゆたえども沈まず』は著者の小説『楽園のカンヴァス』や『暗幕のゲルニカ』などに続く代表作である。
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本作は、19世紀後半におけるパリの美術界を舞台に、明治時代に活躍した日本画商・林忠正とその架空の助手・重吉と、当時パリでは無名画家であったフィンセント・ファン・ゴッホと兄を精神的、経済的に支えるテオドロス・ファン・ゴッホ(通称テオ)との交流が織りなすフィクションである。
タイトルにもなっている「たゆたえども沈まず」はセーヌ川のことを指して「不安定で揺れはするが、決して沈没はしない」という意味をもっており、まさにフィンセントの辛く苦しい生涯を示している。本作では見事にそういったフィンセントの人生やそれを支える弟・テオの苦悩を描き出している。
フィンセントの一生や欧米のジャポニズム人気や印象派の浮世絵からの大きな影響といった当時の時代状況を知るにはとっておきのの一冊と考えられる。 -
[ 13歳からのアート思考 ]
あなたは中学生の頃、「美術」は好きでしたか。 小学生の頃は「図工」であったはずが、中学生になると「美術」になる。 調査によると、小学校から中学校に上がるタイミングで、一番人気が下がる教科が「美術」である。
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なぜなら、知識を求められるからだ。絵を描く技術と芸術作品への知識をスコア化して、順位をつける。そうして良い評価がもらえず、美術に対する苦手意識が生まれ、避けるようになってしまうのだ。しかし、本書で語られているアートとは、上手に絵を書いたり、作品に対する知識を問われることではない。
「自分だけのものの見方」で世界を見つめ、「自分なりの答え」を生み出し、それによって「新たな問い」を生み出すという思考のプロセスである。 これを聞くと、それはアーティストに必要なものであって、私には関係ないと思ってしまう人もいるかもしれない。 しかし、これは現代社会に生きるすべての人に必要な思考なのである。 この思考を通し、固定概念や他人の思考に囚われず、自分なりの考え方や見方を身に着けることで、流動が激しい時代で、より柔軟に生きることができるのではないだろうか。
美術という教科は正解を探すのではなく、答えを作り出す思考を学ぶ場である。 子どもにとっても、大人にとっても今学ぶべきは美術なのである。 -
[ 徒花図鑑 ]
実を成さずに咲いて散るだけの花 徒花
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東京芸術大学絵画学科で准教授を務める齋藤芽生の初作品集です。本作品集は彼女の絵画作品のみならず詩も掲載されており、文学作品集としても楽しむことができます。彼女の卓越した画力によって生み出される、狂おしいまでの情念の世界は、見る人々をノスタルジックな”あの頃”へと誘います。いつか見たけれども忘れてしまったあの風景。そんな過去の記憶を刺激する彼女の作品はただ静かに存在します。
本作品集は、そんな彼女の作品を学生時代から一挙に掲載しています。本作品のタイトルにもなっている”徒花図鑑”シリーズをはじめとした花をモチーフとした作品。日本各地に存在する花輪と旅でのイメージが再編成された”花輪”シリーズなど、一つのモチーフや見方に囚われない彼女の観察眼を余すことなく楽しむことができます。
合間に紡がれる散文的な詩もアクセントに、あの頃の思い出に浸りながら、彼女の世界観に身を委ねるのはいかがでしょうか。