Art Point Picks
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[ アンリ・マティス ジャズ (岩波アート・ライブラリー) ]
アンリ・マティス(1869-1954)の切り紙絵は、フラットな色と単純化されたフォルムによって、50年以上前につくられたとは思えないほど鮮やかで、現代のイラストレーションにも負けないくらいポップな作品となっている。本作は、そのような切り紙絵の中でも特に代表的な『ジャズ』のシリーズ。
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20点の図像と、マティスによるテキストの日本語訳が掲載されている。
図像の鮮やかなイメージもさることながら、テキストの内容にも注目したい。愛や幸福、絵を描くことについてなどマティスの人生観がよく現れている。一つ一つが示唆に富んでおり、画家からのメッセージとして心に響く言葉である。 -
[ ぼくの哲学 ]
「普通、空間という時は大きな限りない空間のことで、考えというのは大きな意味で考えるという意味だよね。でも僕の頭は空間をいくつかに分け、またいくつかに分け考える。ちょうど大きなマンションみたいに。たまには大きな限りない空間のことや考えるということを思ってみるけど、普段はそんなことは考えない。普段は大きなマンションのことを考える。」
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ウォーホルの発想の根幹がうっすら見える。タイトルは「ぼくの哲学」だが、内容はウォーホルの日常の徒然である。仲間との奔放な暮らしぶりが、たっぷりな皮肉と批判とともに描かれている。徒然の中に哲学があるのか、それともただふざけているのか。ポップアートの旗手の哲学は簡単には分からない。 -
[ アイ・ウェイウェイは語る ]
「もし芸術家たちが社会の良心を裏切ったら、人間であることの根本原則を裏切ったら、いったい芸術はどこに立っていられるんだい?」
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アイ・ウェイウェイ[艾未未](1957年北京生まれ)は、現代中国を代表する芸術の概念を拡張しつづけ、世界でもっとも重要なクリエイターのひとり。美術、建築、デザイン、出版、展覧会企画など多岐にわたる分野で活躍し、とくに2007年の「ドクメンタ12」(カッセル、ドイツ)、2008年の北京オリンピックスタジアム設計に際するヘルツォーク&ド・ムーロンとのコラボレーションによって国際的な評価を高めた。
ハンス・ウルリッヒ・オブリストが何年にもわたって実現した、この連続インタビューで語られるのは、陶芸、ブログ、自然、哲学などのテーマ、そして作品を養ってきた無数の影響にまでおよぶ、彼のアート人生の諸相である。急速な経済発展、社会的変革の渦中にある中国に身を置きながら、独自の視点で現代を過去と繋ぎ、個人を世界と繋ぐ、現代中国で最も刺激的なクリエイターが語り尽くす対話集。 -
[ TRA ]
虎をモチーフにした漫画やアート作品で知られるタイガー立石は、1960年代のはじめから作品を発表しはじめ、1969年からはイタリアへと活動の場を移す。その後、13年間におよぶヨーロッパでの活動期間において商業デザインやイラスト、また建築などさまざまな創作活動をおこなう一方、コマ割絵画シリーズをはじめとする油彩画などを発表する。このような多岐にわたる活動からは「環境を変えることこそが創作意欲を刺激する。ひとところへの安住・現状への満足は拒否」といったタイガー立石の信条をうかがい知ることが出来る。とりわけマンガ作品は、その多様な創作活動のエッセンスを集約したものとして今も多くアーティストから注目されている。奇想天外なコマ割、デジタルのようなアナログ、赤塚不二夫に通じるナンセンスギャグなど。タイガー立石の全マンガ作品集である本書を読むことで、新たな漫画の概念に出合うことができるかもしれない。
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[ 小谷元彦 幽体の知覚 Odani Motohiko Phantom Limb ]
Phantom Limb とは、切り離された手首が、無いにもかかわらず、無いはずの手先の痛みや痒みを知覚するという現象を言う。 生理学的には多分、脳が一定の記憶に基づいた機序を保っていて生き残った神経から送られてくる刺激などで、あたかも手首が残されているかのような錯覚に陥ることで起きる現象だといえば説明がつくのだろう。しかし、作者はあえて、この現象を単なる生理学的な物理現象として捉えるのではなく、すべからず我々生命の知覚というものは、この種の錯覚を基底として成り立っているのだという根源的な認識論にまで立ち入って捉えている。我々はともすれば安定した外界というものが先ず存在し、しかる後に、その存在を知覚するという機序を信じがちであるが、真実はそのような素朴な理解とはかけ離れている。すなわち、知覚は存在によって惹起され、存在は知覚によって創造されるというパラドックスの上に認識というものは成り立っている。それは時として底知れぬ不気味さを秘めて我々の危うい認識というものを突き崩す。手首を真紅に染めた少女の眼差しが我々に投げかけてくる存在の不気味さ不可思議さこそ、作者が訴えたかったものに違いない。
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[ MARIO GIACOMELLI ]
イタリアで生まれ育ったマリオ・ジャコメッリは、印刷所のオーナーとしての仕事のかたわら独学で写真を学びアマチュア写真家としてキャリアを築く。彼の作品は、コントラストが強いモノクロ写真が特徴であり、グレーの曖昧な景色がないぶん黒と白のはっきりした世界が魅力的でもある。また、一枚一枚の写真の空間の奥行きと構成も考えられていてこれも惹かれる要素の一つなのかもしれない。終生に渡り「生」と「死」がテーマとなっており、ハイコントラストがどこかなぞらえることもあるのではないだろうか。彼にとって写真とは、「真」実を写す「写真」ではなく、「これから見る夢」や「まぼろし」を印画紙に封じ込めたもの。
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Alistair crawford著書の「Mario Giacomelli」写真集は彼の初期から晩年の作品をまとめたもので見応えがあり、彼の独特な世界観を垣間見ることができる。 -
[ 芸術実行犯 ]
原爆ドームの上空に飛行機雲で「ピカッ」と描くプロジェクト『ヒロシマの空をピカッとさせる』や、渋谷駅構内にある岡本太郎の壁画『明日の神話』に原発の絵を書き足した作品『Level7 feat.明日の神話』など、これまで社会的タブーに切り込んだ作品を発表してきた“お騒がせ集団”Chim↑Pom。本書では、彼らのこれまでの活動や、海外でChim↑Pomのような活動をしているアーティスト達の紹介を通して、「生き方としてのアート」「現代美術以降のアート」を提示している。
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彼らの若者らしい軽さや無鉄砲さが、作品の生々しさ・斬新さに繋がっていることが分かる。そして、「次は何をしてくれるのだろう」とハラハラしつつも目が離せなくなるはずだ。「現代アートは難しい」と感じる人にもおすすめしたい一冊。 -
[ オキーフの家 ]
20世紀アメリカを代表するジョージア・オキーフ。
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そんな彼女が後半生を過ごしたニューメキシコの2軒の家の写真集。
マイロン・ウッドが写すオキーフの日常風景。生活のなかの、たんなる断片のなかには、おのずと美しさと、かけがえの無さが含まれている。この「オキーフの家」には、それがぎっしり詰まっている。そんなささやかな風景にC・T・バッテンのシンプルな文章がそっと花を添える。
オキーフがヨーロッパよりアジアのほうをずっと好んでいたのは、よく知られているが、オキーフは70歳のころにアジア旅行をした折に日本にも来ている。彼女は日本の「菊」を観察するためにやってきたという。この感覚こそが写実的なものを拡大し抽象化する独自のスタイルを生み出したオキーフなのかもしれない。